森博嗣の神様が殺してくれるの感想

花粉症で頭がぼーっとしている時に図書館で何気なく手に取り、読んでみた。

表紙全面に写っていてる顔が印象的な一冊。

これはそのまま物語ともリンクしている。

森博嗣の世界観においてこの類の発想は新しいものではない。
例えば、同著者による百年シリーズの一巻目である「女王の百年密室」の冒頭には、はっきりと

クリスティナ・ガルシア・ロデロに感謝する。彼女の一枚の写真が、この物語のすべてと等しい。

という一文が著者からの言葉として記されているし、これは同シリーズの続刊においても貫かれている世界観だ。クリスティナ・ガルシア・ロデロとは同書の表紙として使われた写真を撮影した写真家の名前である。

本書、「神様が殺してくれる」は西ヨーロッパを舞台とした一連の殺人事件を描いた作品である。

現代の西ヨーロッパを舞台としている、というのは森博嗣作品としては珍しい。
しかし、純粋なミステリを期待する読者にとっては事件の真相はあまりにも肩透かしになるだろうから、推理小説としては読まない方が良いに違いない。
そもそもライトノベル作家扱いされがちな森博嗣であるけれど、この作品に至っては特に知力を要するトリックは皆無である。したがって、ここにその旨を書いても問題はないだろうし、報われない期待感を新しい読者に背負わせることも減るだろうからプラスかもしれない。

物語設定はシンプルだ。
レナルド・アンペール:本作の主人公。フランス人。大学院を修了し、インターポールに就職。
リオン・シャレット:レナルドの元ルームメイト。女にしては美しすぎるがキャッチコピーの美貌の青年。

物語はレナルドがインターポールで働き始めてから起きたフランスのリールでの殺人事件に端を発する。事件現場にはリオンが両手を後ろ手に縛られた状態で発見される。警察はリオンによる犯行は不可能であると判断し、重要参考人として捜査を進める。リオンは殺人を犯したのはレナルドである、と証言する。しかし、レナルドは全く身に覚えがないばかりか、なぜ大学を離れてから音信途絶状態であったリオンがいきなりレナルドの名前を挙げたのかも理解できない。
更に続けて、パリ、ミラノ、フランクフルトでも似たような殺人事件が起きる。依然、誰の犯行なのか分からない中、各地の捜査官との協力の中で、レナルドは一連の事件に関係している精神科医に目星をつける。加えて、行方不明のリオンもどうやらその人間と一緒に台湾に潜んでいるかもしれない、と分かる。舞台は西ヨーロッパから東アジアに移る。茂木健一郎のプロセス・アイもそうだけど、こうやって激的に舞台が転換していく作品はそれだけで読んでいて楽しい気分にさせてくれる。最後にはレナルドが日本にやってくる下りは、ぼくら読者からするとホームに帰ってきた感があって気持ちがほっこりする。そして、そのまま事件の真相が明かされて、物語も終わりを迎える。この終わり方も再帰的構造になっていて、俺はとても小気味よい感じがして好きだ。

神様が殺してくれるをどう読むか

記事の頭で、推理小説としては読まない方がいい、と書いたけれど、叙述トリック小説として読む線はぎりぎりあるかもしれない。言葉を拾っていくと真実に到達するための伏線は十分に張られているからだ。
でも、個人的には「神様が殺してくれる」を楽しみながら読むためのスタンスは森博嗣が創作する世界観にどっぷりと耽溺する「雰囲気小説」としての読みだと思っている。
このストーリでは多くの主人公のレナルド・アンペールを含む人間がリオン・シャレットの美貌に引き寄せるられて、悲劇に巻き込まれていく。これは物語内部だけではなくて、物語外部に置かれている読者についても同じだ。この小説に添えられたとても美しい顔とそれを引き立てる「神様が殺してくれる」という謎に満ちたタイトル。これらのコンビネーションに魅了されて本書を手に取った読者諸氏は、物語世界でリオンの美貌に惹きつけられた人間たちと同様に、著者である森博嗣の術中にはまってしまったに違いない。
きっと、この物語のすべてが、読者の欲望と等しい。

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