森博嗣 夏のレプリカ 感想 解説 素生 謎

森博嗣 夏のレプリカを解説します 2/2

森博嗣の夏のレプリカを解説します。 前回の記事はあくまで導入であって、あらすじを通して明示されたメインの誘拐殺人事件と簑沢杜萌の兄である素生に関する物語で暗示された問いについては解説した。 こちらが本題であるエヴィデンスのない話を広げようという志向性によって書かれている。 なぜ俺がエヴィデンスを重視した話に興味がないのかについては、こちらの記事に記した通りの事情による。 答えが明かされない暗示された問題たち クイーンとルークは誰を指すのか 杜萌はとても聡明である、ゆえに危うい部分を持ち合わせている。これは森博嗣の作品に登場する他のキャラクタにも共通する性質である。 物語の中では名前の類似点をはじめに杜萌はなにかと萌絵と対比される。 赤松と彼が所属するコミュニティに対する傾倒を見るに、杜萌の方がよりポテンシャルを持っているように映る。そして、その才能のせいで自滅する道を選んでしまう。 その二人が直接的に分かりやすい形で描かれる場面がある。 夏のレプリカの象徴的なシーンとして現れる西之園萌絵と簑沢杜萌の盤なしでのチェス対決である。 杜萌により潜在的な力があると書いたが、チェスにおいては萌絵の圧倒的なコンピューティングのために、彼女は負け通しである。 しかし、物語終盤で萌絵が杜萌宅を訪れて再びチェスで勝負をした際に杜萌が勝つ。これが杜萌の方がポテンシャルが高いという意味である。 萌絵は杜萌が取ったストラテジィから、事件の真相に辿り着く場面は感動的ですらある。 以下、その場面を引用しよう。 杜萌はそっと萌絵から離れ、立ち上がった。 彼女を見上げた萌絵の表情は、初めて本当に悲しそうに見えた。 「杜萌……、貴女が殺したのね?」 「チェスで、萌絵に勝ったのは初めてだよ」杜萌は言った。 「ええ、最高の試合だった」萌絵は頷いた。彼女はもう泣いていない。「貴女はクイーンもルークも、初めから捨てるつもりだったのね? それに気がついたときには、もう遅かったわ」

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森博嗣 夏のレプリカ 感想 解説 素生 謎

森博嗣 夏のレプリカを解説します 1/2

1998年に発表された本作「夏のレプリカ」を2017年の今解説する残念企画へようこそ。 なぜ今さら夏のレプリカを解説するのか まずは本物語の中から簑沢杜萌と犀川創平のやり取りを引用しよう。 「犀川先生は、萌絵のどこが気に入ったのですか?」思い切って杜萌は質問した。自分らしい大胆な質問だと思った。 「その質問をする君が、興味深い」犀川は煙草に火をつける。「質問は、質問する人を表現するんだ。それに対する返答なんかとは無関係にね」 俺が発売からほとんど20年越しで解説しようと決意した意図はこの会話に凝縮されている。 簡潔に書くと、この作品についての質問を思いついてしまったからである。 詳しいことは、森博嗣作品の解釈について書いたこちらの記事を読んでもらいたい。 夏のレプリカへの導入 S&Mシリーズの白眉 全10巻あるシリーズの中でも夏のレプリカは浮いている作品だといっていい。 密室殺人は登場しないし、メイントリックも「まあ」といった感じではある。 「いいのよ、殺しても」という簑沢杜萌の言葉の印象が初めと終わりで大きく変わる、という着想が先にあって、物語が構築された感すらある。 なので、その点に着目するとクリストファー・ノーランのMementoが思い起こされる小説だ。 だけれど、それはまだ表層の話であって、もっと深く物語世界に潜ることができる。 その為に、夏のレプリカは白眉、足り得るのである。 それについて書いていくとしよう。 昔、読んだ人のために 繰り返すが結構前に発表された作品なので内容について曖昧な人もいると思うので、軽くあらすじを押さえてから解説に入りたいと思う。 明示された問題としてのあらすじ

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