プロセス・アイ Process A.I.

茂木の本当の顔

世間的には脳科学者、脱税事件、日本のお笑い芸人はオワコン騒動で名前を知られている茂木健一郎だけど、このSF小説を読むと彼が普段は見せない世界観と科学者としての野望がうかがえるようで面白い。
地上波テレビ、ブログ、Twitterなどで彼を知っていて本当はどんなことを考えているだろう、と不思議に思っている人はぜひ手に取って読んでもらいたい。

2006年に書かれたプロセス・アイは、同年のほぼ同じ時期にちくま学芸文庫から「クオリア入門」が出版されていることを合わせると更に興味深く読むことができる。
SF小説ということになっているけれど、その対象は脳科学者だけあって心脳問題、意識の生成といった今現在もハード・プロブレムとされているもの。

茂木の長編小説処女作

茂木健一郎の長編処女作ということもあって、物語の運び方が雑、個人の人生遍歴はディテイルたっぷりに書かれているのに人間関係の記述は希薄、場面と登場人物の転換が不必要なほどに多い、内面まで深く書き込んだ登場人物がすぐ消えるなど突っ込める所は多い。

なんというか物語の核である高田軍司を通して見た時に全体に一貫した志向性が見えるんだけど、所々に中途半端な人物とその人物にまつわる小話が挟み込まれていて十分に整理されていない印象を受ける。
一人ひとりの自分はとても細かく描かれているんだけど、そこから他の人物やギミックを交えて物語を進めることに失敗している。

人間の意識の原理に辿り着くプロセス・アイ

心脳問題の真理(プロセス・アイ理論)に到達した脳科学者・川端武史と金融理論スペラリティブの発案者で金融業界で大成功を収めた高田軍司の関わりはおもしろい。

「クオリア入門」に書かれている内容の延長を、小説というメディアを通すことで実証性を免除された形で文章レベルで緻密に書かれている。
ストーリーの流れに粗は多い(特に後半の展開とその速度にはネガティブに驚くかもしれない)けれど、そこに目をつむれば、とてもディテイルに拘った心脳問題に関する話を楽しむことができる。

川端武史はプロセス・アイを完成させるために人工的に脳を突き出すことで変性意識状態(神がかり状態)と理性的思考の状態を同時に体験できるようにまで自己を犠牲にする。
この指摘は面白いけど、それを実現するための手法がグロテスクすぎる。普段の茂木からはうかがえないイマジネーションだ。

アウトドア・サイエンティストと色んな国と色んな人たち

否定的なことを書いたけれど、世界各地とそこに住まう人々が様々な背景を持って描かれるのはおもしろい。
特に高田軍司がインドネシアのバリ島につくった研究所は興味深い。
この研究所のコンセプトはアウトドア・サイエンティストであり、研究員は防水加工に超ハイスペックのラップトップを支給され、島のどこでも研究活動ができるし、それを推奨するというもの。

茂木は過去に森博嗣の「すべてがFになる」を痛烈に批判している。
「すべてがFになる」の英語サブタイトルは”Perfect Insider”であり、メインの登場人物である真賀田四季は15年間、研究所の自室から一度も外に出ないというインドアな設定だ。真賀田研究所の他の研究員も同様に人や外界とのコンタクトを嫌っている。

2つの作品に登場する研究所がかかげる理想のコンセプトは真反対だ。
森博嗣の作品は1996年なので、茂木の研究所コンセプトは森博嗣へのあてつけとも受け取れる。

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